クリスマス直前小話『冬の道』
こんばんは、掲題の企画に参加させていただきました!倉見モナと申します。
英語物語は配信などでちょこちょこ遊ばせていただきつつ、上級者ではないので対戦の記事などは書けず……なので、クリスマス前の米倉兄妹の小話を書かせて頂きました!
みなさんはどんなクリスマスを過ごすのでしょうか?
冬の道
商店街を抜けて家へと帰る途中、にぎやかな声は雪がシンシンと降りる道でもよく響いていた。静かな風景に似合わず騒ぎ立てるその声は、ケーキ屋を通り過ぎた後から続いている。
鞄に収まっていた僕は辺りを見渡すと、周りに人がいないのを確認してからゆっくりと這い出る。
冷たい風が当たってぶるぶると体を震わせると、焼けた米粉の身心がパキリと音を立てるのを感じた。あ、ぬいぐるみだったから鳴らないかもしれない。いや今はそんなことどうだっていいんだ。二人の喧嘩がやかましいから起きてしまった僕おこしんは、さてその原因が一体何だったのかを確認するため二人の間に割って入ったのだった。
「二人とも通学路でそんな大声出したら目立つよ、何の話してるの?」
「お兄ちゃんがね、クリスマスケーキはチョコケーキがいいって言うのよ!?」
「英子がクリスマスのケーキはフルーツ山盛り生クリームたっぷりケーキがいいって言い出したんだよ!」
「……。」
なんというか、わざわざ僕が出てくる必要もなかったと思う。せっかく鞄の中から出てきたというのに、喧嘩の内容はクリスマスに食べるケーキの種類らしい。僕はどっちでもいいけど、食いしん坊二人にとっては重要な問題なんだろう。寒空の下ふわふわと二人の周りを漂いながら、一応は話の流れを見守ることにした。
戻ってもいいんだけど、もう一度鞄に入るのって面倒くさいんだよね。
「クリスマスは紅白のコントラストなの!つまりは生クリームにイチゴよ!」
「いーや、冬は限定味でチョコが美味しい時期なんだよ!〇るてぃーきっすだって冬限定だろ!」
「限定って言っといて結構長い時期食べれるもん!クリスマスはやっぱり雪のようなフルーツふんだんショートケーキ!」
「いーや、生チョコ!ガナッシュ!削りチョコ!ブッシュドノエルだってチョコケーキだろうがクリスマスはチョコなんだよ!」
「二人とも……。」
売り言葉に買い言葉とはよく言うけれど、二人にはそれがよく当てはまる。こんなに口喧嘩をしてもずっと一緒にいるんだからそれもすごいことだけれど。ただ今日は、いつもは諦めて引くところが止まらない。
そんなに意固地になるところなのかなあと思うけど、なぜか今日に限って応酬はヒートアップし続けていた。
「お兄ちゃんバレンタインにチョコ貰いたいからってクリスマスからチョコ好きアピールしたって意味ないんだからここは妹に譲りなさいよ!」
「おまっ……別にそんなこと一言も言ってないだろ!?それならたまには兄に意見を譲ってくれてもいいだろ!」
「何よ!私よりちょっと早く生まれただけのくせに!」
「さっきと言ってること逆じゃねえか!それだったら俺だって、お前が生まれて来なけりゃよかったよ!」
「えっ、」
「あ……」
「英夫、さすがにそれは言いすぎだよ。」
思わず二の句が出てこなかった英子にはっとした顔で、英夫も我に返ったかのように言葉を止めた。
僕だって、びっくりしてしまった。いつもだったら、こんなに言い過ぎることはない。
英夫はしばらく言葉を探すようにして視線を彷徨わせていたけど、ついに見つからなかったのか踵を返した。
「……悪ぃ、ちょっと頭冷やしてくる。」
「お兄ちゃん、ごめ、」
伸ばしかけた英子の手を振り切るように、英夫は来た道を振り返ると足早に駆け出して行った。
無くなった手の先に回り込むと、英子は僕のことを掴む。ぎゅっとしても割れないから、ぬいぐるみでよかったなあと思った。
「頭冷やしたいって言ってたし、好きにさせとこう。」
「でも……おこしんどうしよう。」
「英子も、言い過ぎたよね?」
「うん」
「アタシね、本当は、そんなこと思ってないよ。」
「うん、知ってるよ。」
「思ってないのにぃ…うぐっ」
「言い過ぎちゃったのは謝ろうか。」
「うん、でもお兄ちゃん、生まれてこなきゃよかったって……」
「きっと向こうも言い過ぎちゃったんだよ。」
「本当かなあ。」
「思ってることは大体同じはずだよ。」
でもちょっと落ち着く時間をあげようか。
そう言って家に向かう道を示すと、あんなにやかまし…元気系ヒロインの英子は黙ってついてきた。
言葉っていうのは、取り返せもしないくせに思ってもみない形で口から出ることがある。非常に厄介な道具だと思う。ずびびびと鼻をかむ音が聞こえるだけの冬の通学路は、いつもよりも寒い。
ーーーーーー
「やっちまった……。」
あんなこと、言うつもりなかったのに。
なぜか引けなくなって、向こうの表情で自分が何を言ってしまったかに気付いたけどもう遅かった。逃げるように着いたのは商店街の横にある小さな公園。前はジャングルジムとかあったのに、撤去されてブランコとベンチだけになっていた。
ベンチは冷たく、降り始めた雪を軽く払っても座った瞬間寒さに身震いする。
「少年、悩んでおるな。」
「えっ。」
白い縁に赤のでかい帽子。サンタクロースみたいな配色のそいつは、ふわりと現れると地面にトンッと着地した。神出鬼没で滅多ない出没は飯がある時くらい。はっきりとした声は冬のしんとした空気によりクリアに聴こえた。
「……今なんも持ってないぞ。」
「カカカ…傷心の者から食べ物を集ろうという気などないわ。」
「聞いてたのかよ。」
「たまには下々の話も聞いてやろうと思っての。」
決してベンチに座ることなく真正面から見下ろす様子はやはり強いやつなんだろうなというオーラがある。でも話を聞いてやろうってことは本当なんだろう、敵にしたらとても厄介だったけど、味方のこいつは頼もしい。
「言い過ぎた。」
「そうだな。」
「でもたまにはさ、俺だって自分の好きな物、選びたかったんだ。誕生日だって同じ日だけど、ケーキは一つだし。」
「確かにな。」
「生まれた時から、ずっとお兄ちゃんだったから。」
「責任感というやつだな。」
「でも、もしかしたらずっと鬱陶しかったのかなって。」
「英子はな、英夫がずっと兄としているから安心して甘えられるのではないか?」
「そういうもんか?」
「民が安心して上の者に意見を言えるというのも、立派な為政者の勤めじゃ。」
「上に見られたことはないと思うし、難しいことはよくわかんねえけど……。」
「カカカ……そうだな、我らにとっては等しく可愛い童じゃ。」
まさか殿の言っている言葉はいちいち難しくて完全に理解出来ていないけど、多分こいつなりに慰めてくれているというのはよくわかる。ベンチから立ち上がると、もうよいのか?と言いながら横をついてきた。
「帰って謝る。また喧嘩するかもしれないけど。」
「ケーキなど、2つ頼んだらよいではないか。」
「お前……いや、ありかもな。」
「駄賃は今日の晩飯でいいぞ。」
「消えないと思ったら家の飯狙ってるな!?」
「今宵はハンバーグと見た、帰宅したらまず米を追い炊きすることだな。」
「おいだきって炊飯で聞かねえんだよな。」
「腹が減っておるから喧嘩もするのじゃ。」
「説得力が段違い…。」
幾分かすっきりした頭で先ほど駆け込んだ道を戻る。
家に着いたら真っ先に謝ろう。そんでケーキは…どっちも食べたいって母さんに言ってみよう。
クリスマスの夜、どんなケーキになったのかはまた別の話。
ーーーーーー
米倉兄妹を甘やかしたい。
いいクリスマスをお過ごしください!!